漏⽃胸について
お子様の胸の凹み(漏斗胸)が気になった場合は、「小児外科」のある当院までご相談ください。漏⽃胸とは、胸骨が肋骨に挟まれることで胸の中心とおなかとの境界あたりが凹む状態のことを言います。漏⽃胸は約1000人に1人程度の割合で発症する先天性の疾患で、男の子に多く見られる傾向があります。凹みの度合いは個人差があり、左右が同じように凹むこともあれば、片方のみ凹みが強く現れる場合もあります。生まれるつきや家族性にあることは決して多くなく(自身の専門外来の経験で親や兄弟に漏斗胸があるのは3割程度)漏⽃胸の7割程度が幼児期に現れますが、中には小学生や中学生になって急に身長が伸びた頃に現れるケースもあります。また、稀ですが幼児期以前に発症した漏斗胸の中には成長とともに凹みが目立たなくなる(漏斗胸が改善する)ことがあります。
漏⽃胸の原因
漏⽃胸の原因は、まだはっきりとは明らかになってはいませんが、原因の一つとして先天的な肋骨の形性異常も指摘されていますが、多くはありません。漏⽃胸のお子様は胸部を支える肋骨や肋軟骨の力が弱いため、呼吸するたびに前胸部が落ち込んで、徐々に凹みが現れるのではないかとも考えられています。また、漏⽃胸のお子様に見られる比較的多い共通の特徴として、いびきをかくことが多いことも挙げられます。これは、扁桃腺やアデノイドが大きいため、空気の通り道が狭くなり、呼吸するときにより大きな力を使うことで前胸部が落ち込んで凹みが現れると考えられています。自身の経験からも、おそらく、胸郭を支える骨格の問題と空気の通り道の問題との関連が考えるお子さんも一定数存在すると思われますが、小学校高学年から思春期に凹みが進行するお子さんも時々見られることから、原因はいくつかあると考えています。扁桃腺やアデノイドは手術によって除去することが可能で、1年ほど経過すると前胸部の症状が改善することもありますが、扁桃腺やアデノイドの手術は漏斗胸を治すためではなく、耳鼻科的に手術の必要性がある場合と考えています。
漏⽃胸の症状
単なる見た目の問題と扱われることが多いですが、成長に伴い胸壁の凹みで内臓が圧迫されることが問題となります。心肺の圧迫症状以外に腹部の症状なども伴いことがあります。
1幼少期
胸の凹みがあっても3歳までのお子様の場合、さほど気にすることはありません。ただし、胸部の凹みによって、気管支が圧迫され狭くなり風邪を引いたときに咳が長引いたり、気管支炎や肺炎を繰り返したりします。また、稀ですが胃や食道が圧迫されるため食後に吐いてしまったりすることがあり、食が細くなることでなかなか体重が増えないなどの問題もあります。凹みが目立つと5歳以降になると凹みを気にするお子さんもいます。手術や手術以外の治療法(バキュームベル)が可能な年齢は5歳以降になります。
2学童期
小学校に入ると、気管支炎や肺炎になることは少なくなってきますが、自身の胸の凹みを自覚したり周囲から指摘されたたりするようになり、精神的な負担が生じるようになってくるお子さんがいます。また、重度な凹みの場合は、凹みが心臓を圧迫し運動をしたときに疲れやすかったり、すぐに息があがってしまったりすることで、他のこどもについていけないなどの新たな問題も生じることがあります。
3思春期以降
思春期以降は、皮下脂肪がつくことや乳房の発達などで、外見上胸の凹みはあまり目立たなくなることもあります。しかし、あくまでも外見上目立たなくなっただけで、内臓の圧迫が改善したわけではありません。CT検査を行い骨格の評価を行うと肋骨と胸骨に強い変形が起きていて心臓はあっぱくされていることもあります。逆に、思春期の成長の過程で凹みが進行したり、左右非対称な形状になったりすることがあり、女の子の場合凹みの形状によっては、乳房の形状に影響することもあります。また、姿勢が猫背になったり、側弯が多い(漏斗胸の3割程度)のも特徴の一つです。さらに、年齢が上がるにつれて、胸の痛みが生じることもあります。漏斗胸は陥凹により心臓が圧迫されることで、圧迫に伴う胸の痛みの出現や、心臓の動きが制限されることで、成長に伴い十分な血液が送れなくなり、運動で呼吸が苦しくなることや立ち眩みなどの症状が出現しうることがあります。
漏⽃胸の診断・検査・治療
当院では、大学病院で漏斗胸の診断や治療経験が豊富な医師が診療を担当しています。お子様の漏斗胸の治療経験が豊富で、お子様それぞれの問題点や治療の必要性などに関して相談・診察することが可能です。
漏⽃胸の診断・検査
胸の凹みの程度や肋骨による内臓の圧迫度合いを把握するために、胸部レントゲン検査や胸部CT検査などの画像検査と機能評価としての呼吸機能検査・心電図検査などが重要です。漏斗胸のお子さんのすべてが最初から画像検査などの検査が必要ではありません。検査や治療がが必要と判断される場合は、連携している漏斗胸の治療経験が豊富な医療機関を紹介いたします。
漏斗胸の手術
漏斗胸の手術では、一般的にNuss法と呼ばれる方法を行います。これは、肋骨の下に金属バーを挿入し、凹んだ肋骨を持ち上げて矯正するという手術法です。なお、手術の際には1~2週間程度の入院が必要で、挿入したバーは手術の2~3年後に手術で取り除きます。以前は、就学前の手術が推奨されていましたが、手術時期が早すぎると思春期の成長の過程で再度陥凹を起こす可能性もあるため、特に陥凹が生活に支障がなければ、一般的に10歳以降で中高生までに行うことを推奨します。。ただし、陥凹が重度で圧迫による症状がある場合や本人が陥凹を気にしている場合は、就学前から手術を検討しています。なお、手術はこの年齢を過ぎてしまっても可能です。最終的な手術の判断は紹介先の専門施設での判断になります。当院の担当医(院長)は、漏斗胸の研究会の世話人も務めた経験があり、成人の漏斗胸の治療経験も豊富で、「どの程度の漏斗胸か」、「手術は必要か」、「どのような手術で、術後は合併症など何が重要か」など、の相談や診察は可能です。漏斗胸に関するご相談は、成人の方でもお受けいたします。また、手術が必要だと判断される場合は、連携している高度医療機関を紹介いたします。